# 著作者の権利−譲渡権−消尽

 

 当該ソフトウェアの利用許諾契約書の内容にもよりますが、一般的には、ソフトウェアの譲渡に際して、ソフトウェア制作会社の許諾は必要ないものと考えます。

 

〜〜〜 補足説明 〜〜〜

 

1 譲渡権の消尽

(1)パソコンにインストールされたソフトウェアは、著作物の複製物です。

そして「著作者は、その著作物をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有」(26の2)(cf.映画の著作物)していますので、ソフトウェアの譲渡には、その著作権者の許諾が必要とも思われます。

しかし「譲渡権者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物」(26の2U@)や、「譲渡権者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物」(26の2UB)には、譲渡権は及びません。

このことを、「譲渡権の消尽」と言います。

(2)一般に、ソフトウェアの販売は以下の手順で行われます。

@ ソフトウェア制作会社とその販売店との間で、ソフトウェア(データ)の複製物の売買契約。

A ソフトウェア制作会社とその販売店との間で、ソフトウェア著作権の使用(譲渡)許諾契約。

B その後、お店とお客の間で、ソフトウェアの複製物の売買契約。

この場合、上記Bが「譲渡権者・・・の許諾を得た者により、著作物の・・・複製物が、公衆に、譲渡された場合」に当たりますので、譲渡権が消尽し(26の2U)、その後の複製物の譲渡は自由となるのです。

なお、インターネットを通じてソフトウェア制作会社のサーバにアクセスして直接自分のパソコンのハードディスクにソフトウェアをダウンロードする場合も、データをダウンロードする行為が「譲渡」に該当するので、上記と同様に譲渡権が消尽し、その後の複製物の譲渡は自由となるものと考えます。

 

2 利用許諾契約の形態による考察

(1)譲渡権の消尽を定める規定(26の2U)は強行規定なので、ソフトウェアの「譲渡」をする際に、その利用許諾契約に「譲渡権は消尽しない」と定めても効力はありません。

(2)ソフトウェア制作会社とユーザーとの間の契約が、ソフトウェア(の複製物)の売買(譲渡)契約ではなく、一種のデータ貸与契約である場合には、どうでしょうか。すなわち、ソフトウェア制作会社のソフトウェア使用許諾契約書に、ソフトウェアを販売するものではなく貸与するのみであるとする条項がある場合などです。

この場合には、複製物が「・・・譲渡された・・・」に当たらないから、譲渡権も消尽しないとの考え方もあり得るでしょう。

しかしソフトウェアの場合には他の著作物の複製物と違い、譲渡対象が有体物ではないことに特徴があります。そうすると、価値に実質を有する金銭が「保持=所有」となるのと同様に、ソフトウェア(データ)の保持が移転した場合には、必然的に譲渡されたことになると解される余地もあるのではないでしょうか。

そうすると、ソフトウェア制作会社の上記規定は、譲渡権の消尽を回避する効力は認められないことになるでしょう。

(3)なお、ソフトウェア制作会社のソフトウェア使用許諾契約書には、最初のユーザーがソフトウェアを第三者に譲渡することができることを前提に、デバイスと分離して移管する前にソフトウェアを削除する必要がある旨定めているものがあります。

よって、この使用許諾契約書による結論は、上記の結論と同様になるでしょう。

 

3 データの再インストール

(1)譲渡を受けたデータを(他の)パソコンに再インストールしたら、複製権侵害になるでしょうか。

「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる」(47の2)とされています。

この規定は従来、ソースプログラムをオブジェクトプログラムに変換して利用するための複製とか、プログラムの滅失毀損に備えるための複製(バックアップコピー)とか、プログラム利用者の目的やコンピュータに合わせるための変更などを指していると解されており、これによれば、ソフトウェアの購入者は、譲渡を受けたソフトウェアをパソコンにインストール(複製)して実際に使うためには、ソフトウェア制作会社との間の著作権使用(複製)許諾契約が必要になります。

しかし今日では、一般的な利用形態であるCD−ROMに固定されているプログラムをパソコンのハードディスクにインストールするような行為も同規定により許容される、と解されるようになりました(作花文雄「著作権法」377頁)。

この考え方によれば、譲渡を受けたデータを(他の)パソコンに再インストールすることは、法律上、当然にOKということになります。

(2)このように解すると、譲渡権の消尽とも相まって、一旦公衆に譲渡されたソフトウェアについては、その後は全くのフリーとなってしまい不都合との疑念もあるかもしれません。

しかし、「前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。」(47の2U)とされています。

よって、市場に出回る複製物の総数は維持されてそれが増殖することはなく、またソフトウェア商品が廃れていく速度に鑑みれば一定数の中古品が市場を徘徊するとしても、実害はないということなのではないでしょうか。

以 上

CopyrightC)弁護士 安藤信彦(2007